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プライベート・プレス──書物と紙片にまつわるエトセトラ
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短編童話《小さな国の月夜の話》
九谷焼香炉 に寄す



煙立つ摘星樓のその奧に焚く刑に臥す少年がひとり



皎々の月夜、決まって伽羅の香りがゆっくりと立ちのぼる樓閣が山の中腹にある。薄縹色に金の縁取りで唐草模様が刻まれた樓閣は、その国の人々から「摘星樓」と、深い憧憬と畏怖をもって呼ばれ、いにしえの教えより、それまでだれひとり近づく者はなく、悠久の時をかさねてきた。ある雨上がりの夕刻、琥珀の肌を持つ少年がひとり、人々の忠告を余所に山深く入り、それ以来、伽羅の香りが立つようになった。 

摘星樓とは、遠く彼方の星々を摘む処・・・。少年は毎夜樓閣で星を摘みそれを喰らった。それはそれはえも言われぬまこと甘美な風味で、喉を通り内蔵へと至る道すがら、砂糖菓子が沁み込むような快楽を少年の身に与えた。しかしその樓閣は、美しい星々を摘む代償として、少年の美しい琥珀の肌を焼くことを欲し、じりじりと真っ赤な炎で焼き尽くした。その苦痛たるや声をも失う程で、琥珀の肌は醜く黒々となり、煙をあげた。

次の月夜、無惨な姿でふたたび星を摘み喰らい、星々の残骸が身の隅々にまで行き渡ると、少年の焼けただれた肌はキラキラと蘇り、琥珀のなめらかさを取り戻した。しかしそれも束の間、また樓閣の炎に肌は焼かれ・・・伽羅の香りとはすなわち、星々の残骸と少年の琥珀の肌が焼けた匂い。ひとすじの煙と共に、その国の家々の調度の隅々にまで伽羅は届き、今日もまた、人々を眠りから覚ます。

永遠に繰り返される至福と苦痛の中で、その少年はひとり恍惚の表情と共に臥し、魅惑の伽羅の香りに包まれたその国の人々はやがて、口を失い匂いを喰らう人となって、摘星樓から流れくる日々の糧を待つようになった。 

むかしむかし、山々が美しくつらなる静かな湖畔の、小さな国の月夜のお話である。

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