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プライベート・プレス──書物と紙片にまつわるエトセトラ
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DATE: 2005/05/10(火)   CATEGORY: バレエに寄す
ジゼルを想う、姉妹の物語 ……1……


 晩春の小雨が、初戀の告白を囁くように優しく降る夕べのこと、リラの館、と呼ばれる古いお屋敷に住まう百合子と鈴子の姉妹は、レース編みの手を休めて、ふくよかに薫る紅茶を頂いておりました。

「ねえ、お姉さま、昨晩のお話をしてくださらない? お姉さまとお友達の瑠璃子さん、とてもお綺麗だったもの。あの薄桃の絹のドレス、お袖のふくらみもたっぷりとしていて、殊に素敵ね……昨晩は『ジゼル』をご覧になったのでしょう? 『ジゼル』のこと、最初から最後まで、すっかりお聴きしたいわ」

「……昨晩は劇場で、瑠璃子さんのご友人にもお会いしましたのよ。その方、雪子さんとおっしゃるのだけれど、薄ラヴェンダーの、絹モスリンのドレスをお召しでいらして、ご本人も楚々と可憐なご様子、まぁ、ジゼルみたい……と、皆が噂していましたわ」姉の百合子は、室内に広がるベルガモットの香を追うように、目差を漂わせています。

「その雪子さん……ふと視線を落とされた時のご様子が、なにか物憂いを含んでいらして、特別な身の上をお持ちの娘さんの風情なの。わたくし、なんだかとても気になってしまって……そんな心持のまま、ジゼルを拝見しましたのよ」妹の鈴子は、百合子の瞳に宿る幽愁に惹きつけられるように、じっと耳を寄せていました。

「幕があがって……舞台は葡萄狩りの季節を迎えた山間の村……美しい村娘のジゼルは、アルブレヒトとの戀に夢中なの。露西亜のバレリーナの、たおやかなステップや可憐なマイムのひとつひとつに、ジゼルの一途で純粋な愛を感じましたわ……どこまでも慎ましく、清らかな愛を……」

「でも、お姉さま、アルブレヒトは、本当は貴族でいらして、バチルド姫さまの婚約者なのでしょう? 本当のことをご存じないジゼルがとても可哀相だわ」鈴子は、御ませに口をとがらせて百合子を見つめます。

「そうなのだけれど……露西亜のダンスール・ノーブルのアルブレヒトは、偽りのない愛を、心からジゼルにそそいでいるのよ。一途であるがゆえに、一瞬のきらめきのように儚い愛の誓い……うっとりするほど純真に、二人は囁き合って……だからバチルド姫があらわれて、本当のことを知ってしまったジゼルの嘆きといったら! か細いからだ全部をアルブレヒトへの愛でいっぱいにしていたのが、一瞬でそのすべてが悲しみに変わってしまったの。正気を失ったジゼルは、とうとう息絶えてしまって……ジゼルの大きな嘆きが、皆のこころにも苦しく響いて……」

 姉妹の双の瞳からは、小さく光るものが頬をつたってゆきました。百合子は続けます。



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