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DATE: 2012/04/20(金)   CATEGORY: 随想録
桐の花とカステラと半喪
Noohl_kiri.jpg
写真作品《霧雨の加護》2012


 拙個展《バレエ詩集~半喪のパ・ド・ドゥ~》まであと二週間となりました。

 今回は、ベルギーの詩人ジョルジュ・ローデンバックの小説『死都ブリュージュ』から夢想したバレエへのオマージュをオブジェや写真作品に閉じ込めた、新作約20点と旧作5点ほどの展示になります。ただいまブリュージュの灰色、繊細優美な半喪の色と向き合いつつ、繊細優美とはかけ離れた姿で最後の追い込みに邁進しております。


 温暖化の影響か、昨今は季節から季節へうつろう時期が飛ぶように過ぎ去ってゆきます。ちょうどこれからむかえる晩春から初夏にかけての清廉なころは、一年の中でも格別に大好きな季節です。北原白秋の歌集『桐の花』の一節を清々しい空気とともに鮮やかに思い出します。


桐の花とカステラの時季となつた。私は何時も桐の花が咲くと冷めたい吹笛(フルート)の哀音を思ひ出す。五月がきて東京の西洋料理店(レストラント)の階上にさはやかな夏帽子の薄青い麦稈のにほひが染みわたるころになると、妙にカステラが粉つぽく見えてくる。さうして若い客人のまへに食卓の上の薄いフラスコの水にちらつく桐の花の淡紫色とその曖昧のある新しい黄色さとがよく調和して、晩春と初夏とのやはらかい気息のアレンヂメントをしみじみと感ぜしめる。私にはそのばさばさしてどこか手さはりの澁いカステラがかかる場合何より好ましく味はれるのである。粉つぽい新しさ、タツチのフレツシユな印象、実際触つて見ても懐かしいではないか。

            ......北原白秋『桐の花』アルス刊(昭和21年)より抜粋
               *一部、正字部分がありますが新字のままとしています



 バレエ・リュスでニジンスキーが振り付け、当時物議をかもした『牧神の午後』、ドビュッシーによる音楽の、フルートの倦怠を予感させる時季でもあります。


 北原白秋の文はこの後、短歌の形式や哀感に触れてこう続きます。

併し私はその完成された形の放つ深い悲哀を知つてゐる。実際完成されたものほどかなしいものはあるまい。四十過ぎた世帯くづしの仲居が時折わかい半玉のやうなデリケエトな目つきするほどさびしく見られるものはない。わかい人のこころはもつと複雑かぎりなき未成の音楽に憧がれてゐる。マネにゆき、ドガにゆき、ゴオガンにゆき、アンドレエエフにゆき、シユトラウス、ボオドレエル、ロオデンバッハの感覚と形式にゆく。

 ……「ロオデンハッハ」とは『死都ブリュージュ』の作者ローデンバックのこと・・・桐の花の季節、半喪の展覧会を催す身にとっては嬉しい符合でした。


 今回の展示は、数年前に書いたバレエ台本《死都ブリュージュ、半喪のパ・ド・ドゥ》を発展させたものです。

 長きに渡り敬愛し、鑑賞してきたバレエの舞台、モダンよりもロマンティックやクラシックを好む者にとっては、男性舞踊手の活躍が身体の衰えとともに変遷してゆく様子を寂しさを持って拝見してまいりました。 
 確かに、エレガントな跳躍やムーヴマンは見る者を幻想の世界にいざないます。しかし、身体の衰えに反比例するように充実してゆく深い、そして翳りのある精神性ほど、男性舞踊手を内側からしっとりと輝かせるものはありません。
 残念ながら現在、その魅力に焦点をあてた全幕物のバレエはほとんどありません。ジョン・クランコ振付作品『オネーギン』が唯一ではないでしょうか。2005年に拝見したルグリ氏のオネーギン(シュツットガルト・バレエ団来日公演)はそれはそれは素晴らしいものでした。若い男性舞踊手では決して表現しえない、複雑な綾織り物のような人物造形でした。

 『オネーギン』の舞台を拝見しながらふと、『死都ブリュージュ』のことを考えていました。これこそ壮年のダンスール・ノーブルにぴったりな物語ではないかしら……と。オデット/オディールのように、外見上はうりふたつの、しかし内面は正反対の二人の女性(亡き妻/踊り子)が登場する物語の構造もまさにバレエの常套句。

 バレエ愛好が高じ、妄想が膨らみ、バレエ台本《死都ブリュージュ、半喪のパ・ド・ドゥ~プロローグ付き全三幕》を書き、2010年ヴァニラ画廊HP内『ヴァニラ画報』に寄稿致しました。併せて、ブリュージュの物語に寄せたオブジェ作品《皮膚と遺髪のネック・ブローチI ~ 夜の喪章》も画廊内に常設展示、今回はこの旧作も出品致します。恐れ多くもキャスティングまでしてみました♪


 桐の花とカステラの時季、『死都ブリュージュ』から夢想したバレエの世界をぜひご堪能にいらしてくださいませ。舞台は一夜のまぼろし、その儚いまでの無償の芸術性への敬意と賛辞を少しでも感じて頂けましたら幸いです。
 ブリュージュの灰色は長々と投じられたカトリシスムの影の色……影と半喪の静謐なる祈りの世界が底流にあります。

 かはたれのロウデンバツハ芥子の花ほのかに過ぎし夏はなつかし 北原白秋

 そして黒色すみれさまの新作CD『すみれ詩手帖』も北原白秋の詩に彩られていらっしゃいますね。「John, John, John~♪ Tonka John♪」と一緒に唄いながら制作中です♪

 

 皆様のお越しをこころよりお待ちいたしております。
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