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プライベート・プレス──書物と紙片にまつわるエトセトラ
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DATE: 2005/05/10(火)   CATEGORY: バレエに寄す
ジゼルを想う、姉妹の物語 ……2……
「そして……舞台は、夜深く月のひかり射す森の、沼のほとりへ。そこは、未婚のまま死を迎えた乙女の霊、ウィリーの女王ミルタが支配する暗い森……ウィリーたちは、通りかかる男のひとを息絶えるまで踊らせる怖い精霊なの。ジゼルに好意を寄せていた森番のヒラリオンも、ジゼルのお墓参りにきたところをつかまって、命を落とすのよ」

「長いチュチュをお召しの、たくさんの踊り子さんがあらわれる場面でしょう?」鈴子は、ことのほか瞳を輝かせます。

「そう、その群舞はそれはそれは幻想的なのだけれど、実は、この世とあの世が行き来する、死のあわいの場面なのよ。墓碑から蘇ったジゼルも、幻のようにふわふわと、美しいけれども人をまよわす怖さを湛えているの。白百合を抱えてあらわれたアルブレヒトもまた、ウィリーたちに捕えられるのだけれど、深い悔恨の気持ちにふれたジゼルは、すべてを許して、必死で彼を守ろうとする……二人の踊りは、死のあわいを行き来する無償の愛の物語となって、見る人のこころを打つの……あわやかな幻のように、美しさと怖さをあわせ持つジゼルに戸惑うアルブレヒトの姿は、わたくしたちのこころの奥に眠る、死というものへの畏れのように思えてならないの。そう……モスリンから透ける、雪子さんの青白き小さな肩も……」

 言いかけて、ふと百合子は口を閉じました。御ませな鈴子といえど、少しばかり大人びた話題かもしれない……と。

「人間と精霊とのあわいを揺れうごくジゼル、それは、愛ゆえに……しかし、朝を告げる鐘が鳴り、ウィリーは朝靄へと消え、永遠の別れの時が二人に訪れる……ジゼルもまた墓碑へと消え、朝のひかり射す森の中にひとり、アルブレヒトは虚しく佇んで……」

 あわれ、ジゼルの物語に想いを寄せる姉妹の頬にもまた、晩春の小雨が優しく降りそそぐのです。




              ……雑誌『エスカルゴスキン』第2号に掲載
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