Club Noohl
プライベート・プレス──書物と紙片にまつわるエトセトラ
DATE: --/--/--(--)   CATEGORY: スポンサー広告
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
page top
短編童話《時計の精の一日》
「時計の精」の一日は、人間と同じ24時間に変わりはないけれど、「終わり」や「始まり」というものがありません。一日中全く眠らないので、人間のように、朝何時に起きて今日も一日がんばろうという切りかえがないのです。時々ご主人様がネジを巻くのを忘れて時計が止まったとしても、それは人間で言えば仮死状態におちいったようなもので、「時計の精」にとっては、休んだ、とか、眠った、という感覚はないのです。

「時計の精」の人生はもっか(・・・妖精にも人間と同じような感覚で「人生」という感覚があればの話しですが・・・)、ご主人様に時計を見てもらうためだけに費やされます。規則正しいストイックな動きとは裏腹に、並みいる妖精たちの中でも群を抜いてさみしがり屋のようです。妖精たちの多くは人間に見られることを極端に嫌うのですが、その人間に「勝手に」仕えている「時計の精」は、時に他の妖精たちから冷ややかな目で引き合いに出されます、「そんな調子じゃ、まるで時計の精じゃないか!」という具合に。 

ご主人様はというと、「時計の精」が自分に仕えているなどとは夢にも思わないので、無意識に、少し乱暴に扱ってしまうことがあります。この前も、腕時計をぽんと棚に置いたところ、ベルト部分の金色の金具が壊れる事件がありました。片腕がもげた状態で修理屋に担ぎこまれた「時計の精」はしかし、どこか嬉しげです。自らの身を投げ打って得たご主人様の愛情の証、とでも言わんばかり、手術痕を夜な夜なじっと眺めています。どうやら想像力が豊かで、空想好きの妖精のようです。

時計を見てもらうために、「時計の精」は休みなく動きます。「約束をさせること」「時計の針を少しずらすこと」、このふたつのいたずらが、「時計の精」が言うところの「愛情を集めること」の奥義だそうです。

ある時は、ご主人様が寝ている間に、『あなたのはな』という絵本を書棚から取り出し、台所の棚の上に隠しました。次の朝、寝間着のままでごそごそと家中を探し回るご主人様。どうやら今日の仕事の資料に使う絵本のようです。お昼ごろにはついにあきらめ、おもむろに受話器を取ります。「もしもし、あ、わたし。たしか『あなたのはな』、持っていたわよね? ちょっと見あたらなくて・・・貸してほしいのだけど・・・。うん、じゃあ3時にいつもの喫茶店で。」「時計の精」はいたく満足げです。

こんなこともありました。ある日、ご主人様がお友達との待ち合わせのレストランに着くと、そのお友達は少しふくれています。「遅いじゃない、30分も遅刻よ。」ご主人様はあわてて腕時計を見ます。時計の針は、約束の時間の10分前をさしています。「変ね、ネジ巻いたばかりなんだけど。」そう言ってご主人様は、時計を振ってみたりペシペシと叩いてみたりします。「時計の精」の満足げな顔が目に浮かぶでしょう? 

こんな風に、他の妖精たちとのつき合いもせず、せっせと自分だけの世界を追求している「時計の精」は、ご主人様に忠誠を誓っているように見えて、実はとても移り気です。あの日、レストランで待ち合わせをしたお友達のふくれっつらが、「時計の精」の琴線にいたく触れたようで、その場で華麗なる転身を遂げています。新しいご主人様はどのような空想をもたらしてくれたのでしょうか。「時計の精」のいたずらに、またあのふくれっつらをしているのでしょうか。

そのお友達とは、このお話を聴いているあなたかもしれませんよ。ふいに時計が狂ったりした時は、どうぞお仕置きを忘れずに!



 背の高い友人からの贈り物 tick?tack小さなハートと鼓動
page top
Copyright © Club Noohl. all rights reserved. ページの先頭へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。