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プライベート・プレス──書物と紙片にまつわるエトセトラ
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短編童話《ミント風味のチョコレート》
くるみ割人形 に寄す



星々のひと粒ひと粒てのひらにくるみ割る夜の屋根裏の話 



ある友人がわたしの家を初めて訪れた時、玄関に置かれた季節外れのくるみ割人形について、二三訊ねてきた。わたしは事のいきさつを簡単に話し、軽く頷いたその友人が語ったことには、《くるみ割人形》にはもうひとつの隠された話があるという。数年前、ドイツの片田舎を旅行した際に、チョコレート屋の主人から聴いた話で、ミント風味のチョコレートを食べる度にそれを思い出し、複雑な気持ちになるという・・・



森が呼ぶ隣町からの歸り道
ミントの香り漂はせて呼ぶ



その昔間引かれたる子ら埋められし
涙あふれて森の泉(みづ)となり



その森を行き交ふ子らは丈一寸
(みづ)の祟りと森の人云ふ



(ぎょく)を吐く子らの排泄美しき
森のあちこち露の輝き



眞夜中に男來て捨てたる玩具箱
人形が列つくりて森へ



人形の玉(ぎょく)割り喰らふ暴虐に
靜かな森に血のさざなみが



(ぎょく)ひとつ玉(ぎょく)ふたつみつと潰されし
子らのいのちもひとつずつ消え



露のなき森光失せ腐敗せり
闇にのまれて地圖からも失せ



間一髮 子らの死骸を抱き森を拔け
オルゴールの音時折響く



母の聲 返事せぬまま屋根裏へ
痛ましき子ら弔い涙す



亡骸に涙あふれて玉(ぎょく)となり
夜空の果ての星々となり



わたしとその友人は静かにティーカップを置き、しばらくの間沈黙していた。ふと気が付くと夕暮れ時の室内は薄暗く翳り、人や物の輪郭が不明瞭なこともわたしたちの沈黙をより深くさせた。帰り際、玄関先のくるみ割人形を一瞥して友人が言うには、それと寸分違わぬ人形がチョコレート屋の棚にもあり、そしてそこの主人もまた、その人形にそっくりであった、と。
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